2023年シーズン、新庄剛志監督率いる北海道日本ハムファイターズが、シーズン前の下馬評を覆す奮闘を見せている。
昨シーズン、新庄監督の就任が大きな話題となったファイターズ。しかし、昨シーズンは59勝81敗と大差での最下位に終わった。
戦力的に厳しいシーズンだった。チーム内で規定打席に到達したのは、松本剛と清宮幸太郎の2人のみ。野村佑希や今川優馬、上川畑大悟など、規定打席に満たずも活躍した選手はいたが、絶対的なレギュラーと呼べる存在はほとんどいなかった。
投手陣では加藤貴之や上沢直之、伊藤大海を中心に先発ローテを構成。しかし長年リリーフ陣を支えた宮西尚生の不調など、なかなか勝ちパターンを確立できなかった。リリーフが崩れ、終盤に大量失点した試合も少なくない。
さらに、22年オフには打線の中心であった近藤健介のホークスへFA移籍が決まったことで、ファイターズ打線は2023年シーズン、さらに厳しい状況になることが予想された。
シーズン前、ほとんどの野球解説者がファイターズを最下位予想するなど、「どうせ今季も最下位だろう」と思っていたファンも少なくはないはずだ。しかし、交流戦終了時点で31勝35敗、4位につける奮闘を見せている。
今季のファイターズは昨シーズンと何かが違うだろうのか。今回は、新庄ファイターズ躍進の原動力となっている2人の選手を紹介しよう。
万波中正
今季ここまでの新庄ファイターズで野手のMVPを挙げるとすれば、5年目の万波中正を挙げる人がほとんどだろう。
4年目の昨シーズンは300打席以上に立つなど、本格的に一軍で経験を積んだ。そんな彼の最大の課題はコンタクト率と選球眼。昨シーズンは打率.203、三振数は112、四球12。打席の割に三振が多く、四球を選ぶ数は少なかったため、出塁率も.237と低めだった。
ただ、打率こそ上がらなかったが、14本塁打を記録するなど持ち前の長打力を存分に発揮。コンタクト率さえ上がれば本塁打王争いも可能なのでは、と思わせるようなパワーは魅力的だった。
万波は課題のコンタクト率を改善するため、打撃フォームの改造と定着を目指した。昨シーズンまでの万波は、打てなくなると打撃フォームを変えて復調を図っていた。しかし、今季はバットを寝かせるフォームを確立。余計な予備動作がなくなり、バットがスムーズ出るようになった。
フォーム改造が功を奏し、課題のコンタクト率は格段に上昇。ここまで打率.273、出塁率も.328と大幅に向上。加えて、着実に三振する割合も減少している。
コンタクト率重視になると飛距離が落ちるように思えるが、万波は違った。なんと、コンパクトなスイングで弾丸ライナーをスタンドに突き刺してしまうのだ。現時点で昨シーズンの14本に迫る13本塁打を記録。60打席ほど今季の方が少ないのにも関わらず、である。
現時点で万波の13本塁打は、パ・リーグの本塁打数ランキングのトップ。このペースであればシーズン30本塁打と本塁打王のタイトルも夢ではない。どこまで打率と長打力を両立できるか、万波の打撃から今後も目が離せない。
田中正義
22年オフ、ファイターズを震撼させた近藤健介のFA移籍。近藤の人的補償でホークスから獲得したのが田中正義だった。
田中と言えば創価大時代、最速156km/hの質の良いストレートを武器とする大学屈指の剛腕として注目されていた。そして2016年ドラフトで5球団競合の末にホークスに入団。
しかし、ホークスに在籍した6年間は1軍昇格を掴む寸前での体調不良、度重なる故障に悩まされることが多く、結局1勝も挙げられなかった。「5球団競合のドラフト1位」という肩書きは田中にとって、間違いなく大きなプレッシャーだっただろう。
ホークス時代にほとんど結果を残せなかった田中だったが、ファイターズ移籍後、新庄監督は彼を積極的に起用していく。
今でこそクローザーのイメージが強い田中だが、開幕当初のクローザーには石川直也が起用されていた。しかし、石川は4月下旬に肉離れで離脱。これを受け新庄監督が代役に抜擢したのが田中だったのだ。
クローザーとしてのデビューは4月21日の楽天戦。9回1点リードの場面での登板となった。しかし、1アウトも取れないまま4連打を浴び、あっという間にサヨナラ負けを喫してしまったのだ。
それでも新庄監督は田中をクローザーから降ろすことはしなかった。田中もその期待に応え、守護神の座を守り抜き、交流戦終了時点で11セーブを挙げている。特に交流戦では抜群の安定感を発揮。7試合に登板し1勝4セーブを挙げ、堂々の無失点投球を披露した。
ここまでの飛躍の要因には新庄監督のアドバイスがある。新庄はオープン戦期間中、田中に「笑顔で投げなさい」とアドバイス。この助言の裏にある新庄監督の狙いは、リラックスして投げさせることにあった。田中はこの助言通り、笑顔で投げる新たなスタイルを確立し、飛躍を続けている。
昨シーズンのチームの課題の一つであった勝ちパターンの確立。今季は宮西もセットアッパーとしてフル回転している。このまま田中がクローザーに定着すれば、ファイターズの新たな勝利の方程式は強固になるだろう。
緊迫した最終回に笑顔のクローザー。余裕すら感じられる表情は、打者にとっては不気味で仕方がないはずだ。ファイターズの絶対的守護神となるべく、田中正義はマウンドで笑顔を絶やさない。
以上、ファイターズの躍進を支える2人の選手を紹介した。
もちろん、彼ら以外にもファイターズには注目してほしい選手が沢山いる。新加入の助っ人A.マルティネスや、逆輸入ルーキー・加藤豪将などなど。さらに中日とのトレードで獲得した、山本拓実と郡司祐也の起用法にも注目だ。
新庄監督はどこまで先を見ているのだろうか。新戦力と若手中心のファイターズの未来が楽しみでならない。
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