気づけば2023年も6月。
野球界ではNPB、MLBともに開幕から早2ヶ月が経過した。
大谷翔平(LAA)やヌートバー(STL)のWBCでの活躍もあり、日本からMLBへの注目は日に日に高まっている。
また、今季新たに念願のMLB移籍を果たした選手もいる。
吉田正尚がボストン・レッドソックス(BOS)へ、千賀滉大がニューヨーク・メッツ(NYM)へ、藤浪晋太郎がオークランド・アスレチックス(OAK)へ移籍を果たした。
果たして日本で実績を残した選手たちは、MLBでも生き残ることができるのか。
本記事ではここまでの吉田正尚と藤浪晋太郎、千賀滉大の3選手に焦点を当て、ここまでの活躍をまとめて紹介しよう。
1. 吉田正尚(BOS)
まずは、オリックスからボストン・レッドソックスへ移籍した吉田正尚。
WBCでの活躍を鮮明に覚えている野球ファンは多いはずだ。特に印象に残ったシーンは、やはりメキシコ戦での同点3ランホームランだろう。最終的には22打数9安打、打率.409、2本塁打13打点の大活躍で優勝に大きく貢献。
この活躍には新天地、ボストンのスポーツ誌も「ヨシダは本物だ」と絶賛。
日本の野球ファンとボストンのファンの大きな期待を背負い、吉田正尚は2023シーズンを迎えた。
① 苦しんだ4月とファンの厳しい反応
しかし、吉田のMLBデビューは決して順調ではなかった。
4月は21打席ノーヒットと苦しむ時期もあり、4月18日時点で打率は.167と低迷していた。
オリックス時代は好不調の波が少なく、5年連続で打率3割越えを記録していただけに、この成績は多くのファンに衝撃を与えたのだ。当時ネット上や現地メディアでは、「パワー不足だ」「やはり期待はずれだった」と厳しい声が上がった。
しかし、さすがは吉田正尚。これらの批判的なコメントが間違いだということをすぐに証明してみせた。
抜群の適応力を発揮し、4月は最終的に.276まで持ち直してみせた。
そもそも不調の原因は何だったのか。
その一つに、ボールの上を叩くゴロ性の打球が多かったことが挙げられる。しかし、徐々にボールの下を捉え始め、打球の角度を付けられるようになって以降、驚異的なペースで打率を上げていったのだ。
ただ、驚くのは早かったとすぐに思い知らされることになる。
② 驚異的な成績を残した5月
驚くべきは5月の活躍ぶりだ。
4月から続く連続試合安打記録を16試合まで伸ばすなど、最終的な月間打率は.347を記録。また、出塁率も.410、得点圏打率は.346を記録するなど、名門レッドソックスの主軸に恥じない成績を叩き出す。さらには、「115球連続空振りなし」という異次元の記録まで残し、週間MVPに選出される。
この活躍には、吉田との大型契約に「高すぎる」と懐疑的だった現地メディアやファンも絶賛。今度は「レッドソックスが吉田に払う年棒は低すぎる」と、文字通り手のひら返しのコメント。今ではたったの1試合、無安打だっただけで心配されるほどである。
6月に入っても好調を維持し続け、打率はア・リーグ3位の.308を記録。このまま成績を維持できれば、最優秀新人選手賞の受賞は大いに有り得る話だろう。
日本が誇るヒットメーカーはMLBでどこまでの成績を残してくれるのだろうか。
今後も吉田正尚の活躍から目が離せない。
2. 藤浪晋太郎
一方、藤浪晋太郎はMLBでの巻き返しを狙う。
藤浪の武器は160km/hを超えるストレートと鋭く落ちるスプリット。ただ、阪神時代は制球力が大きな課題であり、四死球で自滅してしまう試合も少なくなかった。
NPBでの直近3年では7勝と、苦しいシーズンが続いていた藤浪だったが、環境を変えるべくNLB移籍の道を模索。そして今年1月、単年約4億3875万円でアスレチックスと契約した。
藤浪のMLB挑戦に国内では懐疑的な声も多く上がったが、一部では「日本よりMLBの方が活躍できる可能性もあるのでは」という見方もあった。
私も藤浪はMLBで活躍できると考えている。もちろん、滑るボールへの適応とある程度の制球力改善ができれば、である。
同じ直球と高速スプリットを武器に活躍した澤村拓一が好例ではないだろうか。
澤村も日本で不本意なシーズンを送りながらも、2021~2022年の2シーズンをレッドソックスで過ごした。33歳からの挑戦で100登板100奪三振を記録するなど、十分MLBで通用したと言えるだろう。
筆者自身も日本で燻る藤浪を見て、「思い切ってMLBに挑戦してはどうか」と考えていた。
日本では期待されながらも、満足のいく活躍ができなかった藤浪晋太郎。MLBでどこまで通用するのか、藤浪のここまでの成績を見ていこう。
① 先発で苦しんだ4月
藤浪の起用法についてアスレチックスのコッツェー監督は、先発で起用すると明言。
こうして迎えた初登板初先発は4月2日、大谷翔平擁するエンゼルスとの一戦。藤浪と大谷、高校時代以来のライバル対決は国内外で大きな注目を集めた。
1回と2回は無失点で抑えたものの、迎えた3回に大谷にタイムリーを浴びるなど、2.1回を投げ自責点8。なんとも苦いMLBデビュー戦になった。
この試合も阪神時代にも見られた、先頭打者への四球が大量失点の起点となってしまった。
その後は15日のメッツ戦では6回を投げ3失点と試合を作るも、結局4月は4度の先発登板で防御率は14.40、4敗という苦しい内容であった。
② 中継ぎへの配置転換
4度の先発登板で4敗と、結果を残せなかった藤浪。
コッツェー監督は4月25日、藤浪を中継ぎへ配置転換すると明言。短いイニングで制球力を安定させるところから、というのが監督の狙いのようだ。
こうして5月は11試合に中継ぎ登板したが、月間防御率は10.50。投球回数の12回に対し9四死球と、依然として制球力に課題が残る投球が続いた。
決して悪い点ばかりでもない。5月は奪三振率は11.25を記録していることから、持っている能力の高さは伺える。
6月はここまでオープナーとして2度先発するなど6試合に登板し、防御率は4.26という成績。
制球改善のため、ワインドアップからセットポジションに変更するなど、試行錯誤を繰り返している藤浪。
苦悩と努力の日々が続いているが、ここからの巻き返しに期待だ。
3. 千賀滉大
最後は育成指名ながらMLBまで上り詰めた千賀滉大。
22年オフにニューヨーク・メッツと5年総額約105億の大型契約を結び、念願のMLB挑戦となった。
千賀の武器は160km/h超の直球と、代名詞である「お化けフォーク」である。この2本の軸で奪三振を量産できる点こそ、彼の何よりの魅力であろう。
そして、2017年のWBCでは投手部門のベストナインに選出されるなど、国際経験も豊富。
そんな千賀滉大はMLBの舞台で通用しているのだろうか。
千賀はここまで13試合に先発し、6勝4敗、投球回71.1回に対して87奪三振。奪三振率は10.98と相変わらず投球回数に対して多くの三振を奪っている。
そして、フォークの被打率は1割ほどとMLBでも驚異的な武器であることは間違いない。
被打率の他に千賀のフォークが優れていることを表すデータがある。
MLBで使われる指標の一つに「ハードヒット率」というものをご存知だろうか。「ハードヒット」とは打球速度95マイル(=約152.9km/h)以上の打球のことである。
驚くことに、千賀のフォークのハードヒット率は5月25日の試合で鈴木誠也に打たれるまで、166球を投げて0%だったのだ。(5月18日時点)
フォークばかりに注目が集まりがちな千賀だが、投球割合では22%ほど。当然カウントによって変わってくるが、決して多くはない。フォーク以外ではストレートが40%、カットボールが20%、スライダーが12%という割合だ。
12奪三振を記録した5月25日のカブス戦では、9つの三振をフォーク以外の球種で奪っており、フォーク依存にならないような配球の工夫も見られた。
150km/h中盤をコンスタントに計測する直球と「お化けフォーク」が投球の軸であることには変わりないが、引き出しが増えればMLBで長く戦える投手になるだろう。
4. まとめ
今季新たにMLBに活躍の場を移した3選手を見てきた。彼らの他にも大谷翔平をはじめ、鈴木誠也や菊池雄星らMLBの第一線では日本人選手が活躍している。
今後もMLBの日本人選手たちの活躍からは目が離せない。
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