未来のスター選手がどのように成長していくか。プロ野球における最も重要な分岐点がドラフト会議である。球団の数だけ選手の育成方法は異なり、良い指導者に巡り会えることもあれば、そうではないこともある。
NPBで「育成の上手い球団」というと、どの球団が思い浮かぶだろうか。
私を含め、多くの人が福岡ソフトバンクホースを思い浮かべるのではないだろうか。ホークスは千賀滉大や牧原大成、甲斐拓也ら育成出身選手を輩出している。千賀に至っては、ホークスを飛び出しMLBのニューヨーク・メッツと5年契約を結んでいる。
反対に、「育成ベタな球団」と聞かれたらどうか。
おそらく読売ジャイアンツが浮かんだのではないだろうか。ジャイアンツといえば過去に、ファイターズから小笠原道大を、ロッテから李承燁を、そしてカープから丸佳浩を「引き抜いた」イメージが強いのだろう。
確かに、豊富な資金力を武器にFA権を行使した選手を多く獲得し、彼らが主力を張ってきたのは事実だ。しかし、今シーズンのジャイアンツを見ていると、かつての「金満」「育成ベタ」というイメージがほとんど無くなっているのだ。
投手では23歳の戸郷翔征を筆頭に投手陣の若返りが進み、野手陣では20歳の秋広優人や中山礼都らがレギュラー争いを繰り広げている。
そこで、本記事では「育成ベタ」の印象が強いジャイアンツの未来のスター候補を2人紹介する。
① 秋広優人
1. 選手としての特徴
一人目は2020年ドラフト5位入団の3年目、20歳の秋広優人。
身長200cmの超高身長、95kgの恵まれた体格から、とにかく遠くへ打球を飛ばすことができるパワーの持ち主。そして意外にも器用で、追い込まれてからファウルで粘り、詰まりながらも外野の前に落とすといったバッティングもできる。
登録は内野手で2022年は2軍で主にファーストを守っていたが、今季は中田翔の存在もあり、レフトを守ることがほとんどだ。慣れないポジションにも関わらず、ここまで失策はない。それどころか、長身と強肩を活かしたファインプレーも披露している。
5月下旬からは主に3番を務め、交流戦終了時点で171打席で打率.321、出塁率.363、得点圏打率は.387と堂々の成績。
間違いなくジャイアンツの未来のスター候補である。
2. 飛躍の要因
今季から本格的に一軍で経験を積みはじめた秋広だが、ここまでの飛躍のウラに「師匠」の存在がある。
その「師匠」とは、同じ一塁手の中田翔だ。
秋広が中田に2021年オフの自主トレーニングへの帯同を直訴したことが始まり。当時まだまだ線の細かった秋広に対して中田は、朝昼2合、夜は5合の「食トレ」を課した。22年オフも同様に中田の自主トレに帯同し、食トレと厳しいトレーニングに打ち込み、シーズン通して戦うための体作りに励んだ。
師匠である中田の影響は、秋広の打撃フォームにも表れている。
中田は22年シーズン途中から打撃フォームを変更している。トップの位置を高く構え、オープンスタンスに変えている。今季の秋広も中田に倣ってか、トップの位置とオープンスタンスに変更。
中田の下で体を作り、打撃技術を吸収した結果が今季の打撃成績に表れているのだろう。コーチではないが、秋広は中田という良い「指導者」に巡り会えたと言えるだろう。
発展途上の20歳の将来が楽しみでならない。
② 菊地大稀
ジャイアンツ期待の若手を聞かれたなら、私は秋広よりも先にこの投手の名を挙げる。ぜひプロ野球ファンであれば覚えておいて欲しい選手の一人だ。
1.選手としての特徴
菊地は2021年ドラフト育成6位の入団で、同期の投手には大勢、赤星優志らがいる。
最速154km/hのストレート、切れ味鋭い縦と横のスライダー、フォークを武器に多く三振を奪えるという点が彼の最大の魅力だ。
育成入団ではあったがシーズンが始まってすぐに猛アピールを開始。12試合で驚異の奪三振率15.60を記録した。相手は2軍といえどプロの打者。並の育成ルーキーがそう簡単に抑えられるレベルではないのだ。
この活躍を受け、菊地は4月29日に早くも支配下登録されることになる。2022年のジャイアンツは中川皓太の不在などリリーフ陣が不安定であった。このチーム事情も早期の支配下登録の要因だったのかも知れない。
2023年、菊地はさらなる飛躍を遂げている。
交流戦前までは、打ち込まれる場面もあり9試合で防御率6.75と苦しい投球が続いていたが、交流戦では一変。9試合に登板し奪三振率11.81、防御率0.00と圧巻の投球を披露した。
その結果、シーズンの防御率は3.15まで改善。2年目となり各球団がデータを基に対策を講じる中、ここまで奪三振率11.25と高い数値を叩き出している。
今季途中から抜群の安定感を発揮している菊地だが、なぜここまで良くなったのか。興味深いエピソードがあるので以下で紹介しよう。
2. キッカケは原辰徳監督のアドバイス
5月中旬、制球に苦しんでいた菊地を原辰徳監督がブルペンに呼び出した。
打者の目線から投球をチェック。さすがはプロの指導者というべきか、「上半身の開きが早くボールを見極めやすい」という菊地のフォームの悪癖を指摘。ステップ位置を「2歩内側に」という上体の開きをい抑えるための具体的なアドバイスを送った。
原監督の直接指導もあり、菊地は本来の投球を取り戻し、交流戦9試合無失点という最高の結果につながった。
菊地も原監督という良い指導者に巡り会えた選手の一人なのかもしれない。
③ まとめ
今回は秋広、菊地という、ジャイアンツの未来のスター候補を紹介した。
まだまだ2軍や育成選手の中には将来有望な若手選手が多くいる。そんな彼らの活躍によって、近い将来「育成のジャイアンツ」と言われる日が来るのかもしれない。
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